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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)231号 判決 1994年7月27日

名古屋市中区錦一丁目11番18号

原告

大同特殊鋼株式会社

代表者代表取締役

冨田寛治

訴訟代理人弁理士

佐竹弘

大阪市西区京町堀二丁目4番7号

被告

中外〓工業株式会社

代表者代表取締役

谷川正

訴訟代理人弁理士

青山葆

古川泰通

山田卓二

前田厚司

主文

特許庁が、平成4年審判第19431号事件について、平成5年11月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「金属ストリップの誘導加熱装置」とする発明(以下「本件発明」という。)についての特許第1515928号特許権(昭和58年10月25日出願、昭和63年2月10日出願公告、平成元年8月24日設定登録)の特許権者である。

原告は、平成4年10月12日、本件特許の無効の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第19431号事件として審理したうえ、平成5年11月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月6日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、本件発明の要旨を、「金属ストリツプの誘導加熱装置において、前記誘導加熱装置の所定位置に、金属ストリツプに噴流ガスによる熱伝達を付与する噴流ノズルを配設したことを特徴とする金属ストリツプの誘導加熱装置。」(特許請求の範囲第1項記載のとおり)と認定したうえ、本件特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるとの請求人(原告)の主張立証につき、その理由及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできないとした。

第3  原告主張の取消事由

本件については、出願公告時の明細書(特公昭63-6615号公報)の特許請求の範囲の記載が、その後の昭和63年12月2日付けの手続補正書により補正され、その特許請求の範囲第1項の記載は、次のとおりとなった。

「金属ストリップの誘導加熱装置において、前記誘導加熱装置の金属ストリップ搬送通路の所定位置に、金属ストリップに噴流ガスによる熱伝達を付与する噴流ノズルを配設したことを特徴とする金属ストリップの誘導加熱装置。」

にもかかわらず、審決は、本件発明の要旨を補正前の出願公告時の明細書の特許請求の範囲第1項と同文のものと認定して、要旨の認定を誤り、結果的に、補正後の本件発明が特許法29条2項所定の要件に該当するか否かについての判断を遺脱したものであるから、違法として取消しを免れない。

第4  被告主張の要点

原告主張の手続補正の経緯と、審決が、本件発明の要旨を補正前の明細書の特許請求の範囲第1項の記載から認定していることは認める。

しかし、補正後の明細書の特許請求の範囲第1項の記載は、補正前の「金属ストリップの誘導加熱装置において、前記誘導加熱装置の所定位置に」とあるのを、「金属ストリップの誘導加熱装置において、前記誘導加熱装置の金属ストリップ搬送通路の所定位置に」との限定を加えて特許請求の範囲を減縮したもの、ないしは、補正前の発明と実質的に同一のものであり、発明の実体を変更するものではない。

したがって、審決の結論に違法はない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

原告主張の手続補正の経緯と、審決が、本件発明の要旨を補正前の明細書の特許請求の範囲第1項の記載から認定していることは、当事者間に争いがなく、甲第1号証によれば、審決中には上記手続補正について全く言及されていないことが認められるから、審決は、上記手続補正について考慮することなく、本件発明の要旨を認定したものと認めざるをえない。

そうすると、審決には、上記手続補正の適否についての判断をせずに、本件発明の要旨を補正前の明細書の特許請求の範囲第1項の記載から認定し、ひいては、補正後の本件発明が特許法29条2項所定の要件に該当するか否かの判断を遺脱した瑕疵があるものといわなければならない。

被告は、上記手続補正は、特許請求の範囲を減縮したもの、ないしは、補正前の発明と実質的に同一のものであり、発明の実体を変更するものではない旨主張するが、果してそうであるかどうかにつき、審査審判の段階で判断が加えられていないのであるから、本件訴訟において、その内容に立ち入って実質的判断をすることはできない。

そして、審決の上記瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

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